評価を行う前準備
(1)視環境の画像データを考察する前に、まず、画面表示を「測光色オーバーフロー」に切り替え、撮影等の際に測定できなかった領域を確認します。暗すぎて測定できなかった領域(青表示)や、明るすぎて測定できなかった領域(赤表示)が表示されます。撮影色温度が適切でないときもこれらの領域が広くなります。青や赤の領域は測定できていないので、この部分については評価の考察から外します。
(2)次に、画面表示を「RAオーバーフロー」に切り替えて、リアル・アピアランスで表現できていない領域を確認します。たとえデータが正しく測定できていても、見るディスプレイの表示限界により、リアル・アピアランス(RA)が正しく表示できていない領域(光源など)はあり、それが赤で表示されます。この部分とその近傍の見え方については評価の考察から外します。
このオーバーフロー領域を減らすためには、RA変換の際の二つのパラメータである(提示ディスプレイの)画面最大輝度と圧縮係数を操作します。画面最大輝度をディスプレイの最大輝度に合わせ、さらに圧縮係数を1.0とすると、測定輝度と同じ輝度がディスプレイ上に表示されますが、通常は画面内のかなりの領域がオーバーフローになってしまいます。一般に、リアル・アピアランスはサムネイルのような使い方をすることが多いため、画像全体が明るめに表示されるよう、二つのパラメータが操作されています。このパラメータはREALAPS-jpeg作成後も、REALAPS-Omniを使って自由に変更することができます。
正しく見える領域を広げるためには、画面最大輝度を上げたり、圧縮係数を下げたりすればよいのですが、画面全体が暗くなっていき、VR表示で順応を下げても追従できないほど下がってしまう可能性が高くなります。
なお、どのようなパラメータで変換されているかは、画面の右上の三本筋の部分をクリックして「ファイル情報表示」を選択すると、確認することができます。
評価の進め方
前述のオーバーフローの確認後、視環境評価を進めていきます。光環境を扱う際の評価項目は、①「グレア(まぶしさ)」、②「明るさ」、③「視認性」、④「雰囲気」になり、これらの重要度は、空間の目的によって変化します。一方、色彩環境を扱う際の評価項目は、これらに加えて、⑤「色の適切さ」の項目が加わります。
(3)雰囲気の確認(VR表示)
空間全体の雰囲気(明るさを含む)を確認するためにはVR表示を利用します。ヘッダーの右端付近の「VR」をクリックします。すると画面表示が全画面表示に切り替わり、スマホを使って行うVR体験を想定して、画面が右目用画像と左目用画像に分割されます。マウスを動かしたり、矢印キーを操作することで、360度自由に視線方向を動かすことができます。クリックするとまず、視聴者の順応輝度を下げるため画像が暗転し、設定した秒数でフェードインするようになっています。また、正しいVR体験のための注意事項が表示されます。
VR体験をするには、スマホを挟み込むことができるゴーグルを使用します。Zoomなどを利用してパソコン画面をスマホにミラーリングしてVR体験することができますし、スマホだけで指定のurlにアクセスし、スマホ単体でVR体験することもできます。
(4)グレアの確認(グレア表示)
グレアの評価にはグレア分布図を利用します。グレア分布図は、画像変換を利用して、輝度画像より求めた画像各点の「等価の対象輝度」、「等価の背景輝度」、「立体角(大きさ)」を、UGR式と呼ばれる世界で利用されているグレア評価式に代入し、その画素方向に視線が向いたときのグレア(直視UGR)の程度を推定したものです。指標[UGR_n]は、画素の大きさが視角2度のときに「不快である(UGR=25)」となるグレアを1として変換された値で、オレンジから赤で表示された領域は特にまぶしく感じる部分を示し、「気になり始める(UGR=16)」がUGR_n=0.64に対応することから、UGR_n=0.5をグレアの問題が生じない目安とすることが合理的です。
視線が向かう頻度が高いと思われる方向に、大きくオレンジから赤で表示された領域が広がっていると、グレアに問題があると考えられます。照明基準などに利用される視線方向を固定したときのUGR値は、このグレア分布図を元に、U-Omniを利用することで算出できます。
(5)明るさの確認(明るさ検討表示など)
空間の明るさの評価は、主に明るさ検討表示とVR表示で行います。VR表示で自分の目で明るさを確認した上で、明るさ検討表示や数値(NB値)の分布状況から評価します。明るさ検討表示は、「明るさ分布」の概要が容易に分かるようにしたもので、明るさ画像で求められたNB値を基に5つの領域に塗り分けた画像です。部屋の用途毎に、明るさ判定に重要とされる領域に画像が塗り分けられ、部屋全体から感じる「明るさ感推定値」も表示されます。塗り分け方にはデォルトの「オフィス」用、落ち着いた雰囲気と視作業性の両立が必要とされる「ミュージアム」用、ゆったりと過ごすことに重きをおいた「リビング」用があり、自由に設定することもできます。
なお、明るさ検討表示で塗分けられる領域は下記のような意味を持ちます。
・赤:光源と判断され、部屋全体の明るさ感には影響しない
・黄:明るく見え,部屋全体の明るさ感を向上させる(B: Bright 領域)
・緑:明るくも暗くもなく見え、部屋全体の明るさ感に特に影響を与えない(N: Neutral 領域)
・青:薄暗く見え、部屋全体の明るさ感を低下させる(D:Dark 領域)
・黒:暗い色であると判断され、部屋全体の明るさ感には影響しない
部屋全体の「明るさ感」を向上させるためには、B領域を増やし、D領域を減らすことが求められます。REALAPS-Omniを利用すれば、指定領域の「明るさ感推定値」を算出することもできます。各部屋の用途毎に算出された明るさ感推定値は、標準が100となっており、値が大きいほど明るく評価され、小さいほど暗く評価されます。
また、照明基準などで推奨されている壁面や天井面の輝度を参照しながら検討することも可能ですが、同じ輝度であっても、順応の状況で知覚する明るさが変化することに注意が必要です。
(6)視認性の確認(照度表示など)
視認性の評価は主に照度で行います。一般的な空間では、想定される視対象が紙に書かれた文字など反射で視認性を確保するものが多く、さらにその反射率やそれを見る状況も千差万別であるため、通常は照度値でざっくりと視認性を推定します。視作業が行われるであろう部分について、その部分のN値(マンセル・バリュー)を入力して、輝度より照度を推定します。照度の推定値は均等拡散面を仮定して算出されるので、光沢などがない部分について検討する必要があります。照度の推奨値は、照明基準などで空間用途や行為毎に示されていますが、周辺の明るさや視作業の状況なども考慮して、柔軟に判断することが必要です。
(7)色の適切さの確認(色彩(CAM)表示、VR表示など)
騒色(うるさく感じる色)の判断に、色彩(CAM)表示を利用できます。デフォルト設定では、明るくて強い色(明度Jが高く、彩度Cが高い色)が検出されるようになっています。閾値を操作するなどして、問題となる色を確認してください。一方色調和などの判断は、現在ではまだ定量的に評価することはできないため、VR表示を利用して関係者の間で合意形成を図り、問題となる色がある場合は、どの部分のどの色が問題となるかを、色彩(CAM)の分布や色によって確認します。